ツナグの家:一つ一つの線が繋がる建築へ
吉村順三と私の建築哲学
吉村順三氏をご存知でしょうか? 彼は建築家として非常に有名で、建築学校の教科書には確実に名前が記載されています。
私自身も、彼の建築思考を強く受け継いでおり、これまで関与した建築物の設計には、吉村順三氏の理念に私なりの価値観を組み込んできました。
敷地への深い理解:設計の鍵
「敷地(土地)を見ずにプランは組めない」という彼の信念を私も共有しています。時折、土地がまだ確定していない状態で、住宅の設計を依頼されることがあります。
しかし、住宅は土地があってこそ成り立つものです。その敷地の雰囲気、眺望、方位、それにクライアントの要望や条件を一緒に考慮し、周囲との調和や溶け込み具合を確認しながら設計を行うことが、私たち建築設計士の責任であると考えています。そのため、敷地の確認は一度だけではなく、複数回、時間や天候を変えて行います。その結果、陽光の差し方や風の通り道などの細部まで理解することができます。
ただし、敷地がまだ無いからといって依頼を断るわけではありません。クライアントの建築プランがあるのであれば、それに合致する敷地を探すことも、私の役割と考えています。長年にわたり地元で営業してきた経験から、クライアントの希望に沿う敷地を提案することが可能です。
素材感を活かす:長持ちするデザインの秘訣
「建築の素材感を大切にする」
近年、黒い住宅が増えているように感じます。洋服と同様に住宅にもトレンドがありますが、私が設計士としてクライアントの要望を満たすだけでなく、その建物が数年、数十年後にその周辺と調和しているかが重要だと考えています。一時的なトレンドに振り回されず、長期的な視点で見ても美しい住宅を設計することが私たちの責任と考えています。
無垢材の魅力:三重県産素材の活用
素材については、地元三重県産の無垢材を多く使用します。
主に杉やヒノキを使いますが、それらの耐久性、防水性、色合いはとても良いものです。木材一つ一つの個性を活かし、適材適所に使い分けます。我々が使用する素材は、自然を活かしたものです。節や傷も存在しますが、これらは長い年月を経ることでその魅力を増していきます。
家具と空間:理想の住み心地を実現するバランス
「住み心地・居心地の良い家」を作ることは当然のことながら、その達成には家具との関係が重要であると感じています。家具の寸法と部屋の大きさ、家具の配置は、生活の中心をどこに置くか、家に出入りする人々の動きがどのように関係しているかを決定します。必要なものと、必要でないもの。どちらか一方が強くてもバランスが崩れ、どこか締まりのない空間になってしまいます。
バランスを考慮せずに家を建てるだけでは、単に家を建てるだけにとどまってしまいます。そこで、私はプランを作る際には、何の家具を買い、どのように配置するか、どのような動線があるのか、どのような生活習慣があるのかを設計図に落とし込みます。それが、住み心地・居心地の良い家づくりに繋がると信じています。
クライアントとの関係:建築家の最重要任務
「一つの線で繋ぐ」。この言葉には多くの意味があります。
設計図に描く一本の線、人と住まいを繋げる一本の線、建築した家と周辺を結ぶ一本の線、子供の世代まで繋がる一本の線など、私はこれらの思いを設計に組み込んでいます。これらは私一人の思いだけで成り立つものではなく、クライアントとの繋がりがあってこそ実現するものだと考えています。クライアントの想い(要望)をどれほど具現化できるかが、設計士としての責任であると考えています。